テントの裏から団長の変な叫び声が聞こえてきたから、うっかりライオンの檻の鍵を閉め忘れたのかと思った。なのに特に慌てず騒がず、歩みを競歩に変えたぐらいで冷静に現場へ向かったトロワを、真っ先に迎えたのは予想通りキャスリンで、予想外にもライオンではなく。







「キャスリン、なんだこれは?」
「こっちが訊きたいわ!」

お世辞にも大きいとは言えないテントの裏に、これはとんでもない量だと言わざるを得ないほどの花、花、花。さすがのトロワも呆気にとられた。コロニーの中とは言え廻る大気に揺られた花弁が象の鼻に幾つもくっついている。
客に花咲か爺さんでも居たのだろうか?

「何をバカなことを、これは全部お前宛なんだぞトロワ!」
団長が頭に花弁をつけながら怒鳴り声をあげた。隣のキャスリンがくすくす笑う。
「俺宛?」
「そうだ!」
今日の公演も何時も通りこなしたはずだ。何も失敗はしてないし、かといって特別なこともしていない。身に覚えがなくてわざとらしく首を傾げてみせれば、ずんずんと花に埋もれた道をこちらに向かって歩いてきた団長が、手の中にしまっていた小さなメッセージカードを突きつけてきた。



トロワ、お疲れ様。
今日僕は初めて君の公演を間近で見ることができました。なかなか見に行けなくてごめんなさい。とても素晴らしかったです。素敵な時間をありがとう。
本当は会ってお話がしたいけれど、明日からL3コロニーで大事な会議があるから今日はこれで失礼します。




文末には端麗な筆跡でカトル・ラバーバ・ウィナーと書かれていた。成る程カトルの仕業か。確かにカトルなら、花咲か爺さんと知り合いでもおかしくはないが。何度も脳内に登場させてはいるものの、自分は花咲か爺さんの物語に詳しいわけでもないので、そんな話はここまでにして。

受け取ったメッセージカードを見詰めながら、舞い上がる花びらの中で、トロワはカトルへの返事を組み立てた。カトル、差し入れをありがとう。公演を見に来てくれたことを心より嬉しく思う。会えなくてとても残念だ、また次の機会にでも。

そう書いたカードに一輪だけ花を添えて贈ろう。カトルは察しのいい奴だから、きっとすまなさそうに頭を下げてくるのだろうけど。









花吹雪



激しく息抜きにかいただけ。本来なら小ネタに投下するところをこっちに持ってきてしまった感が。