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政宗は勢い良く寝台から飛び起きた。
雨の音も耳に入らず、愛用の竹刀と道着を乱暴に通学用の鞄に突っ込み、階下へ駆け下りる。
「小十郎!道場いってくる!」
一気に駆け下りた階段から、大声で叫んだ。返事も待たずに玄関へ走って扉を開ける。案外軽かった。声を聞き届けたか、階下のリビングの扉から小十郎が顔を覗かせた。
「お待ちください政宗様・・・・」
そのときにはすでに扉は閉まっていた。
雨音だけが、部屋を満たした。
外へと勢いよく飛び出したが、雨は激しくなっていた。
別に雨が降っていたことを忘れていたわけではなかった。ただ、傘なんて必要ない、と思っただけであった。
家から道場へは走って10分。走ればいい。走れば10分。傘なんて必要ない。
タオルをひっかけた携帯の着信を見る。幸村、とかかれた件名が5通ほど来ていた。どれも彼なりに心配そうな内容で送られていた。悪いことしたな、と苦笑いし、さらに足を速める。
幸村の5通の着信の中に混じった1通の着信が目に入る。中身は確認せずに携帯を閉じて、思い切り全力疾走した。
足の鈍い痛みは気にもならなかった。
見えてきた建物に転がり込む勢いで扉を開ける。
「政宗殿!」
突然あいた入り口の扉から飛び込んできた男の姿を見て、幸村は真っ先に声をあげた。
その空気を裂くような声に他の門下生たちも一斉に入り口へと目を向けた。
「政宗?」
「筆頭じゃあねぇか!」
「筆頭!」「ずぶ濡れですぜ!」
道場内が一気に騒がしくなる。
門下生の何人かが、タオルやらなんやらをもって駆け寄ってくる。
他はなんだなんだと会話をし始めた。
「shut up!!」
その騒がしさも政宗の一声ですぐに静まった。
静かになったのを確認すると、政宗は全員の顔を見回して、いつもの笑みを浮かべた。
意地の悪そうな、自信気な笑み。
「sorry、遅れちまったがその分の埋め合わせはこの後の時間できっちりする」
事情は言わなかった。
誰も聞きはしなかったし、政宗自身も必要ないと、傘をもっていくかいかないかなんて事と同じように思っていた。そして何より、誰もが明日に集中していた。足の痛みが今更かえってきたが気にしない。制服の上から道着を着て、慣れた竹刀を手に取る。
ふと顔をあげると、怪訝そうな表情をした幸村がいた。
その幸村に笑んでみせ、竹刀を向けた。
明日は勝つぞ、真田。 と、
* * *
日曜日、午後2時ごろ。
佐助は店内を掃除しながら口笛を吹いていた。何故か一緒に手伝っていた鎌の介にすごい目で見られ、首をかしげると丁度携帯でその曲が流れた。
すぐに取って耳に当てる。
「もしもしー?」
「俺だ」
低く、鋭い特徴ある声。
名を名乗らずともすぐに誰か認識した佐助は顔を明るくさせる。
「伊達ちゃん!?どしたのどしたの今丁度暇だったんだよーうれしーなーぁ!」
声も明るくなって、妙に大きくなる。
そのおかげで手洗い場まで声が届き、暇だ、といった言葉にあからさまに機嫌の悪そうな才蔵が佐助を睨んだ。が、全く気にせず、というか気付きもせず会話を続ける。
「変な呼び方すんじゃねーよ」
「いいじゃんいいじゃん気にしない気にしない!大体何て呼んでもいいっていったの伊達ちゃんでしょ」
「ま、そだな・・・それより勝ったぜ」
「・・・・へ?」
電話越しに、政宗の嬉しそうな声。佐助は何のことか一瞬理解できなかったが、カレンダーを横目でみて、ああ!と声を更に大きくして、
「本っ当!!??やったね伊達ちゃんすっごーーー!!
これで地方大会出れるんだよね!?うわぁすごいすごい旦那もお祝いしてあげなくちゃ!」
と、耳に穴が開きそうなぐらいに喜んだ。
勿論、政宗の様子はわからない、が恐らく呆れたような顔をしたのだろう。
そんなことを想像しながら佐助はにこにこと機嫌よさそうにさらに舌を動かした。
* * *
高いビルの一階に構えられた喫茶店。
窓に近い席でひとり元就が座っていた。
時計を見ながら、非常に行儀良く品良く席につき、さらに窓の外を見る。
「よぉ」
窓に目を向けた直後、声がかけられた。
非常にラフな格好に、少し大きめの鞄を提げて、元親が手をあげて笑う。
「遅い、5分遅刻だ。」
「相変わらずだなおめぇは」
それでもちゃんと悪ィな、と一言いってから元就の向かい側の席に座る。
そして真正面から元就をみて、
「・・・・髪きった?」
心底驚いたような表情をされて元就は見下したように腕を組んだ。
「それがどうした」
「いいんじゃね?似合ってる似合ってる」
テーブルに肘をついてそう言った元親に、態度が悪いと文句を言う。
これから何か、何かがかわっていくんじゃないだろうか、と
何気なしに元親は思っていた。
昨日の雨の名残は何処にもない。
第一幕 閉幕
とりあえず、導入なので重要でありつつ先のよめない、でもキャラ間はわかるような・・・
そんな微妙なところを目指しました。
予告としてはサスダテ二人の話。多分。