2−3
店を出ると空が赤く染まっていた。あの中だけが世間から隔離されている感覚だ。
よく晴れた空に夕日が美しく見える。きっと明日も晴れだろう。
「疲れた?」
自動販売機でコーヒーを買ってきた佐助が、それを差し出しながら尋ねる。
「大分。」
事実なので何の考慮もせずにそう返す。佐助は困ったように笑った。
コーヒーを佐助の手からとり、ふたを開ける。
「もうすぐ暗くなるし、送っていこうか?」
「別にいらねぇよ」
「足もあるし、何かあったら大変だし」
「Don't worry。」
コーヒーを飲みながら、至極当然のように政宗はかわす。
大して足は悪くない。元々そんなの酷くはなかったのだからそこまで心配される筋合いはない。
病人扱いは何となく御免だった。特に佐助に対しては。
「でも危ないって。別に治安が悪いとかじゃないけど・・・・」
「おい」
思わず、声音が厳しくなる。
隻眼で佐助を睨むように目を向けた。
「おせっかい。」
ほんとうに、不快そうに。隻眼を細めて言い放った。
「・・・伊達ちゃ、」
「手前そんなに俺のこと大事か?」
本音であった。
第一、会って数ヶ月。別に多く交流してるわけでもなく、ただ何となくの縁でこんな風になっているだけ。
佐助のお節介さは幸村相手でもそうだから、普段は気にもしないし政宗としても楽だから別にと思っていた。
だが、たったこれだけのことでそこまでムキになられると話は別だ。
第二に、政宗はこの態度が”異常”であることを知っている。
「伊達ちゃん」
飲み終えた缶コーヒーを握りつぶす。その音と先ほどの呼びかけに政宗は顔をあげた。
何、と政宗の口が発音する前に、佐助はその手首を勢い良く掴み取った。
「伊達ちゃん、」
「・・・あんだよ」
「俺のこと、嫌いになった?」
Ah?と彼特有の返事が返る。
それは、恐らく”はぁ?”と同義語。
「お節介?嫌い?おれのこと、」
「何言ってんだお前」
「お願い嫌いにならないで」
呟くように、しかししっかりとした声で、佐助は無表情のまま言葉を発し続けた。
「きらいにならないで。おせっかい、いやなら絶対にしないからもうこれから絶対に気をつけるから。
お願いだから嫌いにならないで。お願い。」
政宗は苦笑した。
何と返せばいいのやら。頭はそう言っていたが、心では何と返せばいいか、よくわかっていた。
「嫌いになるわけねぇだろ」
苦笑したまま、掴まれた手首を動かして離せと訴える。
「ほんとに?」
疑うような、でも安心したような声で佐助が問う。
「理由がねぇだろ。おせっかいなら小十郎もいい勝負だ」
無表情のまま、佐助はゆっくり手首を解放した。
そして、政宗の顔を見て、弾かれたように笑顔になった。
「やっぱ送ってく。片倉さんがうるさいだろうし」
片倉さん、という単語に政宗も渋々了承する。
他愛もない話をしながら、佐助は今日才蔵に言われたことを思い出した。
”あんまり執心すんなよ。お前の感情はおっそろしーほど粘着質だから”
* * *
すっかり日も暮れたあと、「鳥烏」の扉を開けるともうすぐ店じまいの店の中に、才蔵と幸村がいた。
「あれ?」
才蔵はいつも佐助と共に店の戸締りをするからいて当然だ。だが、
「旦那、どうしたの?」
「おお帰ったかさすけぇ!!きいたぞ政宗殿と出かけていたらしいではないか!」
恐らく才蔵からもらったであろう牛乳を飲み干し、何故かやたらと上機嫌な幸村は佐助に駆け寄る。
佐助より頭ひとつぶんぐらい背の低い幸村は、佐助をしたから見上げるようにしながら笑った。
「うんまーね。それよりどうしたの?こんな時間に。道場は?お館様は?」
「いや、お館様と帰る途中に寄っただけだ。お館様は先に帰られた。
最近来ていなかったからな。」
酒にでも酔ったかのように嬉しそうに話す幸村につられて佐助も笑いながら頭を撫でる。
「旦那も髪伸びたしそろそろ切る?」
「む、もう少しそれは待ってくれぬか?」
突然真剣な表情をして、しばっている後ろ髪に手を触れた。
「今は願掛けをしておるから」
その意図を理解して、佐助もそっか、と返して諦める。
だが更に一層強く頭を、髪がぐしゃぐしゃになるほど掻き撫でて、旦那はかわいーねーと茶化す。
「子ども扱いするなさすけぇ!!俺はもう17だぞ!」
遠目で見ていた才蔵は、いやまず否定すべきなのはそこじゃねぇと思っていたが、口にはせずに溜息を吐いた。
幸村が帰ったあと、店に残り後片付けをした佐助と才蔵は、電気や窓を確認して戸締りをする。
才蔵は玄関に向かう佐助に鍵を投げてよこす。それを見事にキャッチした。
「おめーほんっとにわかりやすいよなぁ」
それまで無言で作業をしていた才蔵が口を開いた。
「何が」
「そんなにあのふたりが大事かよ」
まるで当てつけだよ、とまでは言わなかった。
しかし後に続く言葉も理解してか、佐助は不快感を隠さないまま、
「あんたには一生、わかんないだろうけどね」
と哂った。
第二幕 閉幕
や・・・・
やっと終わった二幕ゥゥゥゥ!!!!
正直、かいてるのがしんどい幕でした・・・。(遠い目)
ただ進行上必要な部分だったので・・・長かった・・・・・
さて次回は「となりの●●●さん」です。
次回はきっと書くのも楽しい・・・はず・・・・