普段は、正直なところあまり口を開かない。戦が無いときは人と関わって時間を過ごすことも少ない。部屋でひとり暇を潰すか、政務をぼちぼち片付けるか、或いは刀を持って修練を積むか。軍議も重要なことは小十郎が大抵説明してくれるので、政宗が口を挟む必要はほとんどない。戦場での、あの饒舌さや興奮状態は、あくまで戦のときのものなのだ。



だから、時々わからなくなったりもする。ふと我に返って、自分はどっちだ、などと自問したりする。間違いなくどちらも自分なのだろうが、それにしても不確かで曖昧なものだ。輪郭線なんか、幾ら濃く引いたってすぐに掻き消えてしまう。噎せ返るような血のにおいと、緩やかに流れる風の勢いで。



されど特に気に病むようなことでもない。消えたってまた書き直せばいいのだ。むしろ消えない線が恐ろしい。何度となく消えるから、政宗は何度もここに帰って来れるし正すこともできる。

当たり前だと誰もが口を揃えていうだろうか。だがそんな当たり前のことを考えるのも結構難しいものなのだ、戦という奴は。政宗は冷ややかにそう思った。今日は穏やかなときの、一日である。




修正線




原点回帰。政宗らしさについて考え直しました。












襖の前で跪き、名前を呼んでみたが返事がない。小十郎は少し首を傾げた。
「政宗様、失礼致します」
今日一日は何とか政務をしていただく、と部屋に押し込めたはいいが、政宗に全くやる気がなかったことを思う。まさかまた抜け出したのではないか。有り得ない話ではないので無礼を承知で襖を開けた。
「政宗さ…ま…?」
紙と硯の乗った机の下に足を伸ばして、後ろに倒れ込むように、寝ている。静かに寝息をたてながら眠っている。どっからどうみてもふて寝だ。一応、政務に手をつけよいとはしたらしいが、やはり気分が乗っていなかったらしい。
本来ならば、小十郎は起こして叱って机に向かわせて小言をいわなければならない場面だ。しかし小十郎は寝転がる政宗をじっと見て、その気が急激に失せていた。小十郎にとって政宗は、幾つになっても可愛いこどもなのである。




愛情一筋




政宗を「可愛い」とかいうのは多分小十郎だけですけどね












静かな天井を見上げた。持ち上げた右腕には白い布が巻き付けられている。もう血は滲んでいない、傷などついても治せばよかろう。元就は目を伏せた。

なに、次はしくじるまい。躊躇いはもとより無かった。策を講じて叩き潰す、いつものように行えばよい。あんなものに負けるはずもなければ、いちいち憂う必要もない。

しかし心が平静でいられなかったのもひとつの事実だ。そんなことがあってはならぬと否定した。元就にとってこの心は、神聖且つ不可侵の領域である。誰に動かされることもなく、ただひとつ自らの思うところのみに帰依し、いつまでも雄大で、穏やかであるべきなのだ。
肉体はいくら傷付いたとて構うまい。どれだけ致命傷を受けたとて、元就はなんとしても心だけは守らねばならぬのである。ましてや、あんな海賊風情に揺らがされたとなれば、これは恥だ。恥以外の何物でもない。
目をひらく。無表情を浮かべ続けた顔が僅かに歪んだ。憎らしげに舌を打つ。顔を両手で包んで静かに息を吐いた。そう、次はしくじるまい。躊躇いなく叩き潰せ。




白きをもて




うちのカップリングで一番カップリングらしいのは瀬戸内だと思います。なんとなく












帰ったか佐助ぇ!と。幼い声が自分を迎えるのが恐ろしい時期もあった。佐助にとって子供とは、いつのときも恐怖の対象でしかなく、小さな幸村の背を抱きながら常にその温かさに寒気がしていた。


いつの間にか、佐助は大人だった。いや、それは佐助だけに限らないだろう。人間は皆、いつの間にやら大人になっている。身からはみ出したものを綺麗に削ぎ落として、自分の形を保つようになる。
子供の成長を眺めれば、自分では認識できなかったその過程を嫌でも目の当たりにしてしまう。あれもこれもと抱え込もうとして落としまくって、泣いて悔しがっていた時分から、大切なものを取捨選択のために天秤にかけていく様が、ありありと浮かんでくるのである。


おお、ご苦労だったな佐助!と。少し大人びた声が返ることを密かに残念がった。あの背筋の凍る恐怖が好ましいものとは思わないのに、子供が大人になる残酷さに目を瞑りたくなるのだ。




今も、幸村の背は温かいままなのだろうか。佐助はそれに、酷く焦がれる想いでただいまと笑った。




子供の体温




真田主従がすきでたまらん。相互依存的なのがいいです。身内の情が強くなりすぎてぎくしゃくしてる感じ













「あ」
「よお」
「おや」

久しぶりに奥州へと遊びに行ったら、政宗の隣にこの場には不自然な人がいた。銀の長髪をゆらゆらさせて、いかにも不気味な雰囲気を漂わせた、あの人。
「久しぶりだな前田の。夏はどこふらついてたんだ?土産はあるんだろうな」
政宗は大変いつもどおりに接してくるが、慶次は苦笑いしかできない。隣の不気味な銀髪は、にこにこしながら政宗の後ろで政宗の髪にさらさら指を通している。
「…いやぁ…うん、土産はあるよ。都のうまい饅頭」
「そりゃあいい」
「私もいただいてよろしいですか」
「…うん、別にいいけどね…」
その後ろの背後霊みたいな人が、気になってそれどころじゃない。手が首筋を這うと流石に政宗もぺいっ、とその手を退けたが、なんというか…。

「あんたら、仲いいの?」
確かに伊達と織田は見かけの盟約を交わしてはいるが。そう云うと、政宗はあからさまに嫌そうな顔をして、
「そう見えるか?」
と慶次を睨み付けた。

だったらじゃあなんなんだあんたらは!と声高に突っ込みたい。突っ込みたいが、突っ込んだら突っ込んだで理解に困る答えが返ってきそうな気もして憚られた。そして最終的にはまぁいいか、ということに。

慶次は人類皆友達!を標題にしているので、まぁ仲良くしてることに変わりないならそれでいいかと。


受け入れたらさほど異様な光景にも思われず、三人あれこれ会話を交わせば昔からの友人のようでもあり。饅頭を頬張っているときに片倉小十郎が『何寛いでんだてめぇら』と突っ込んでくれるまで慶次はその妙な取り合わせに馴染んでしまっていた。




違和感零一




光政もすきです。光政光ぐらいの勢いで。光政なら慶次を絡めたい。多分結構仲良し。