気持ち悪い臭いがする。
甘い茶菓子のような、それに腐った魚介類のようなのが、さらに爽やかな山のにおいに混ざり、そして多くの血と肉の腐臭したものが、焼かれて煙とともに舞い上がったね
「なんだそれ・・・・」
鼻がきくってあんまりいいことじゃない
「便利ではあるんだけどさ」
「そりゃ、火薬のにおいとか、」
「そうそう」
隣で鼻をつまんだりはなしたり、犬のようにすんすんと動かしたりしてるやつが
「何のにおいもしませぬぞ」
「俺も」
「しないほうがいいんじゃない」
特別訓練とかしたわけじゃないのであくまで雰囲気
戦がきらいだから身についたのかもしれない
同時に京の華やかなにおいも楽しみたいから
「距離は測れるか」
「うーん・・・あっちの方角で三里もないんじゃない」
「おお、見事で御座いますな」
片目を細めて指差す方を見つめるやつが
「・・・迂回するか」
「あとちょっとなのに?」
「関係ねぇ戦に巻き込まれるのは御免だぜ」
確かに
「しかし少々気になる」
手で来た道と行く道をはかる
「あそこには農村があったと記憶しております」
「農村?」
喰い付いてしまった
もう一度、気持ち悪い臭いを確認する
ちょっと喉の奥から吐き気が
改めて嗅ぐんじゃなかった
「・・・・・いくか」
「ええ、迂回するんだろ?」
「気付いちまったもんは仕方ねぇ」
「置いていきますぞ」
「・・・〜〜行く!行くから待てって!」




現在爆進中




信号機の会話が一番かいてて楽しそうだ。
三人三様、誰も発言が被らない
何か、こいつら三人が旅するような話がかいてみたい。


なんか続きました












「おおおおぉぉぉおおぉぉぉおおぉぉぉッっ!!!!!!????????」
珍妙な叫び声がした。それは今現在、甲斐から奥州まで京土産を渡しに来た真田幸村の相手をしている主・伊達政宗の部屋からであった。
すぐ近くの部屋で、幸村のお供をした猿飛佐助と、腹の探り合いとも世間話ともつかない話をしていた片倉小十郎は、思わず部屋の方向へ視線を遣った。まだ声が屋敷内に響いている。
「あちゃー今の明らかに旦那の声だよねぇ」
またあんなに大きな声出して!と母親のような口振りで少々おかしな怒り方をした佐助は、何幸村がなりふり構わず大きな声を出すのは日常茶飯事というように大袈裟に肩を竦めた。小十郎もそうだな、と納得した。
だがまぁあの声量では、同部屋にいる政宗の鼓膜を破りかねないなと立ち上がり、いつも通り怒鳴りに行こうと部屋を出た。佐助も同じ思いであったようで、何も言わずについてくる。
このとき、まだ従者2人は事の異様さに気が付いていなかった。




そもそもはじめから何かがおかしかったのだ。
幸村が爽やかに汗を流し、やり切った表情を浮かべて奥州にやってきたときから。
水を浴びろ!と小十郎は怒号を飛ばし、ついでに水桶も飛ばしたが、政宗はそれをただ笑ってみていただけだった。
水桶が顔面に入り、かなり痛かったが申し訳なさそうな顔をした幸村に、いつもなら労いやからかいの言葉をかけるのに、やはり笑ってみていただけだった。
幸村の面倒を逐一見てやりながら漫才のような掛け合いをする佐助に対しても、いつもの茶化した発言はせず、様子を見て相槌を打つのみだった。




失礼します、と部屋の前で声をかける。政宗からの返事はなかった。小十郎は僅かに首を傾げた。後ろの佐助も同じように疑問を示す。
代わりに、部屋の中からは幸村の、困ったような、焦ったような、その実どちらでもある、普通に一対一で話しているには大きい声が聞こえてきた。


「まっ、まま、まままさむねどのおおおっ・・・・!も、申し訳御座らん、某余計なことを口走ってしまっただろうか・・・・・!!??
もしお気に障ったのであればこの通り!!まさむねど、」
「さなだァァァアァアアアァァァア!!!!!!!てめぇ政宗様に何を!!!!!!!!」
「ちょ、右目の旦那!!」

聞いていて非常に苛立つ、丁寧だが妙に歯切れの悪い言葉の羅列に耐え切れなくなった小十郎が、襖を勢いよくすぱぁん!!と開ける。
鬼の形相をしていた小十郎は、普通のものならば一目散に逃げ出したか怖じ気づいて固まるかしたであろうほどであったが、幸村は救世主が来たといわんばかりに目を輝かせ、小十郎に、ついでに佐助に縋りついた。
「おおおおおおおおおお片倉殿助かり申したァァァアア!!!!某もうどうすればいいのやらさっぱりで・・・・!!!
佐助ぇぇええお前も何とかしてくれ!!!」
「わかったからその喧しい口を閉じろ!」
小十郎に物凄い剣幕で言われて、おとなしく幸村は口を噤んだ。
しん、と一瞬の沈黙を確認した後、小十郎は政宗を見た。そして、目を見開いた。
政宗は無表情であった。左目は混乱気味の幸村を捉えたまま、静かに涙を流していた。これには小十郎が焦った。
「ま、・・・・政宗様、一体どうなされました」
幸村を落ち着かせている佐助もこれには驚いて面喰らっている。え、何、なんなの?と言外に告げていた。
こっちが聞きたい、と小十郎は心の中で返した。
その間もずっと、政宗は涙を流し続けていた。
嗚咽をすることもなく、ただ流れているのだというように、しかし大きく堰を切ったように、流し続けていた。
左目からしか流れないそれは、政宗の顔の左半分だけをひたすらに濡らしていく。
「・・・・なにしたの旦那」
「な、人聞き悪いぞ佐助!俺は何もしておらぬ!」
「でも旦那しかいないよね、するの」
部屋に入る前までは普通だったんだから、といいかけて、佐助は口を閉ざした。
そして小十郎の様子を窺うように視線を向けた。普通?果たしてそうであったろうか。
小十郎は一概に真田幸村の所為だとはいえなかった。





訳を知りたいものたち







思わぬ長さになった。まだ続きあるんだけど
何故か泣く政宗がかきたかった。それだけ。












甲斐からほんの少し北の山中、森林のひとつの手頃な木の上に、佐助は座っていた。
正確にいえば、木の太い枝の上。もうかなり長くこの木と共に成長してきたのだろう。
人ひとり上に乗ったとてびくともしない。偉いね、と佐助はその太い枝の木肌を撫でた。
ごつごつと貫禄のある立派な触感に、恐れ入ります若造が失礼しましたと言葉を直す。
木々の間から覗ける陽の高さから、午の刻が過ぎたようだった。
溜め息を吐く。
自分の忍耐というか意地の張り方というか負けず嫌いというか諸々、それらのなんとまぁ立派に鍛え上げられたものか。
この枝と、質は違うとはいえ同じようなものだ。あれに寄り添い共に成長して、佐助もこうなった。
やはりもう一度溜め息を吐いた。あれとは勿論、佐助の主・真田幸村のことである。
そして何故いつものように旦那だの真田幸村だの表現しなかったか、単純だ。喧嘩をした。佐助は今、小さな家出中なのである。
別にぶつかり合うことは珍しいことじゃない。
あれだこれだあれはこうだ、忍びのくせに幸村にべらべら口出す佐助に、ひとつひとつきっちり反応して返答をする幸村。
日常風景だ。それが微妙にお互い譲れない話になって喧嘩をすることなんて、今更いちいち説明をつけるまでもない。
根本的に考え方も性格も立場も、また今までに生きてきた経験も年月も違う二人では、結局のところ見えるものが違う。当然のこと、佐助は理解していた。
ならば何故今彼は家出なんぞしているのか。
実は家出も珍しいことじゃない。
一時的ではあるが、流石に腹がたったときは一晩中、幸村に顔を見せなかったりする。
そのときは一生帰らないと思ったりするが、佐助は大人だ。
一晩もすれば頭もすぐに冷えて朝には何もなかったように幸村のもとへ赴く。幸村も何もなかったように佐助を迎える。
乱暴な言い方だが、ようするに今、彼は大人になっていない
。一度口にしたことを覆したくなくて意地を張り続けている。今朝、武田を飛び出してからもうかなりの刻が経った。流石にそろそろ頭も冷える。
しかし彼は帰る気になれなかった。恐らくあれはいつも通り佐助を許すのだろうが、そうはしたくなかった。
一体どんな喧嘩をしたのか、内容についての言及は禁句としておこう。理解のし難い話だからだ。橋の向こうは領域外で、滑った石垣の壁の面倒を見る必要もなければ意味もない、瓦屋根の崩れた部分を踏みたいわけではないのなら、影を見ながら歩くなだとか説明し辛さも半端ではない。彼らの喧嘩は原因が複雑に絡みすぎ、既に本題など消えかかっている。

唐突に、佐助は枝の上で身構えた。
素早く辺りを見回して気配を探る。感じた“違和感”の正体はすぐに見つけた。
佐助の遥か下方、その立派な木のすぐ側で馬がぶるるると一鳴き。
「忍びか」
声がした。それは、そこにいるのは忍びなのかという疑問ではなく、かといってこんなところに忍びがいるのかという驚きでもなく、なんだ忍びかという僅かに落胆の気持ちを含んだ一言だった。佐助は急に機嫌が悪くなった。
「お得意の情報収集か、それとも血なまぐさい任務か、どちらにしろご苦労なこった」
眉間に一瞬、皺を寄せた。馬の鼻頭を撫でている男が目に飛び込んできた。
勿論、この男のことは知っている。ただ佐助がこの男を自分の知っているその男と結び付けるのに時間がかかっただけである。
忍びが一度見たものの顔を間違えることはない。またこれは人に限った話ではない。
今回の場合、佐助は声でその男を理解していたが、ああ、あいつだ、と理解した瞬間それ以外で認識しようと思わなかったのが原因である。
佐助がこの男を認識するために必要なのは、一目すれば強く印象に残るであろう弦月の兜。あと右目にかかる黒い眼帯だ。前者が欠けていただけだったが、認識放棄をした佐助には充分な要素であった。
「もしこんなところまで、って付け加えてたつもりなら、そっくりそのままお返しするよ」
この男は奥州の“一番お偉いさん”。普段の目立つ兜は取っ払って、比較的身軽な格好をしていた。
しかし“一番お偉いさん”とわかるだけの要素は残っているから、お忍びだとか、城を抜け出して、とかではないようだ。
「…ていうか、此処あんたの家の敷地内じゃないんですけど」
冒頭で先に宣言しておいた通り、確かに北に寄ってはいたがこの山中はまだ甲斐の国だ。
忍びなら分かっていて当然、佐助がそんなことを間違える筈はない。
だが男はどうでもよさそうに近くを通る街道へ出て、ぐるりと辺りの様子を窺った。
「こんな山の中なら国境なんざ曖昧だろ。どうせこれ以上先には行かねえ」
「どーだか」
「で、あんたは何でこんなとこに居る?」
「それ、答えなきゃ駄目?それはどっちかと言えばこっちの台詞」
「まぁ大した理由でもなさそうだけどな」
「聞く気ないよね、ぜんっぜん聞く気ないよね。…ていうか」
違和感は最初から。気付いたのはこの時。そもそも自分が本格的な家出をしたなんて時点で違和感の塊なのだが。
「何で大したことないって思う」
供のひとりもつけずに山中をほっつき歩いていた男の考えは、複雑に絡んだり生えたり枯れたり伸びたり折れたりしている森の中のように歩きにくく、また方向感覚を失わせる。
「忍びがいたら、大事だって思わないの」
気楽な好奇心だ。実際に、この男のいった通り大したことじゃない。
いやもっと悪いことに、大変私的で忍びらしからぬ理由だ。急に佐助は腹が立ってきた。
「自分の顔を見てみろよ」
自身の片目のない顔を指差しながら、男が言う。
「任務中にそんな人間らしい顔はしねぇだろ」
「……まぁ、そうですね」
当たり前のことを指摘されて拍子抜けした。この男のことだから、何かとんでもないことを言い出すのではないかと身構えたのはただの杞憂だった。
佐助は先程思い出したように吹き上がってきた腹立たしさも、同時にすっと引いていくのを感じた。大きく溜め息を吐く。
「気ィ抜けた…」
「そりゃご苦労だったな」
「あんたねぇ…」
色々面倒になると、佐助はやはり急に、あれに謝ろう、と思い始めた。いや、別に実際には謝らなくてもあれは自分を許すのだが。
経験から分かりきったことでも、佐助は今度こそ謝ろうと考えた。色んなことが曖昧になりすぎた。
曖昧なまま積み上がれば、それは何処かで崩れて溢れるに違いない。
「帰るのか?」
男は変わらず街道を見回している。ここで話を始めてからまだ一度も佐助の方を向いていない。
「任務じゃ、ないしね」
「ようやく認めたな」
「初めから否定はしてないです」
つまらない会話だ。そういえば、あれとの喧嘩もこれと同じくらいつまらない事が原因だった。
思い出して、何故意地を張り続けていたのだろうと考えて、ああ、つまらなかったからだと納得する。
大層適当な答を出して、男を見た。それは木に繋いだ馬を解いてその背に乗り込むところであった。
「はやくいきなよ」
「あんたが行けよ」
「俺は、あんたがほんとにこっから先に行かないか見届けてから」
「そうか」
様子を見れば、先に行く気などないことは百は承知。
「何しに来たのかは、聞かないでおいとくよ」
馬が歩き始めて、男は佐助に背を向けた。
そのまま軽く右手を振って、山を下っていった。結局最後まで佐助の顔は見なかった。
だがとうにどうでもよくなっていた佐助は、その背を見送ったあと、直ぐにあれの下へ進路を決定した。
ようやく大人の姿を取り戻した佐助は、不本意ながら、子供の姿に扮していたあの男に感謝せねばならないと舌打ちをする。
あれは、段々大人になる。体ももう少し大きくなり、性格も落ち着いてくるだろう。
先刻まで佐助が乗っていた木のように、ゆっくりと成長していくだろう。そんな事はわかっている。


意地の張り合いも、いつかしなくなる。
長く永く続くと思い込んでいた時代も、もう背を向けて手を振らなければならない。





発展途上






子供と大人の境界をさまよってるのはもしかしたら書いてる本人なのかもしれませんが、そういう話。何となく、ずっと子供のように見ていた人が段々大人になっていくと、それが何故か受け入れられなくなる。
大人も子供になる。でも子供がいるから大人で、大人で子供で、なんかそういうことです。意味不明…
真田のとこは複雑な喧嘩をするというのは、伊達のとこと対比な感じかな。
逆にこっちは喧嘩の理由がわかりやすそうだ。小十郎のおかげで。












戦馬鹿も大概にしろ!
叫んでみたが、その時にはもうふたつの影は見えなくなっていた。
はぁ、と溜め息を吐く。慶次は溜め息を吐くのが嫌いだ。が、これは吐かざるをえない。
彼の腕の中では小さな赤ん坊がすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
「全く何が楽しいんだろうなぁ!喧嘩は確かに楽しいけどさ、違うみたいだし。
明らかに血の臭いがぷんぷんしてるし。」
なぁ?と他に同意を求める人がいなくて腕の中の赤ん坊に向ける。当然、眠っているそれが反応を返す筈もなく。
段々手持ち無沙汰になってきて、その場に座り込んだ。

近くで戦が起こっている。刀のぶつかる音、馬の蹄の音、血の臭い。
戦を肌で身に染みさせている三人にとって気づくことはわけもなかった。
山中から様子を窺いながら戦地を避けて行こうと慶次が提案したものの、どうやらどう進路を取ってもぶつかりそうだと政宗に返され、結局足止めを喰らうこととなる。
更に戦地の近くに農村があるらしい。女子供が逃げていくのが見えた。きっとその村の者が置いていったのだろう。子供が道祖神の前で泣いていた。
幸村が真っ先に声を聞きつけて駆けつけたのだが、力の加減ができないらしい不器用な彼は、極端な話赤ん坊の腕を捻りかねない。見ていられなくなった慶次が預かった。
「して、何故道祖神の祠に赤子が居るのだ」
「大方村から出て行くところだったんだろう。戦が始まるし食料も満足にねぇし、仕方なく道中捨てたってとこだな」
「冷静に分析しなくていいからさ。この先抜けなきゃ村はないし、俺達じゃ赤ん坊なんて育てられないだろ」
「育てるなんていってねぇよ」
「我らも旅の途中、赤子を連れ立つことは無理かと…」
「だぁっ!そんなことわかってるってば!俺が言ってるのはじゃあ早いことどっかで預かって貰わないとってこと!」
赤ん坊に食べさせられるようなものは当然持ち合わせていない。戦が終わるのを待っていたら一体いつになるやら。
その間に赤ん坊が衰弱死してしまうかもしれない。だがこの三人に赤ん坊を置いていくという発想はなかった。


「じゃあ選択肢はひとつだろ」
政宗が軽い口振りでいった。
意図を汲めずに慶次が首を傾げる。
「行くぞ真田」
「了解に御座る!」
「まてまてあんたら何しに行くつもりだよ」
さも当然そうに歩き始める二人を急いで呼び止める。大層嫌な予感がするのだ。そして今までこの自分の予感が当たってきた事実がある。


「何って…」
「正面突破に決まっている」
「強行突破ともいうな」


的中した。
慶次が力ずくで止める前に二人は楽しそうに走り出した。其処まで走るだけで競争をする子供。
「…乗り切れたら、俺も子供かなあ」
喧嘩しにいくんだと思えば彼らのように楽しめるのだろうか。
どちらにしろ行くしかなさそうだなと諦めて、赤ん坊をもう一度しっかり抱え上げる。
「ちょっと揺れるけど我慢しろよ。落としやしないから!」
走り出せば、意外と楽しいかもしれない、と思い始めてきた。






現在爆進中 続







信号機三人旅は蝶の夢の名残です。楽しいが合い言葉。
これは慶次が苦労人ですが、政宗になったりもしたり。幸村は振り回す側