「さぁはじめるぞ、あとは忍び込むだけだ・・・・なんだ乗り気じゃなさそうだな」
「楽しいのお前だけだろ」

豪華絢爛貴族の屋敷立ち並ぶ路地の一角。まだ10にも満たない子供が三人、誰かの屋敷の庭の塀近くに身を潜める。思いのほか貴族街は静かで、それが三人の神経を鋭くさせた。

「やっぱりやめたほうがいいよ」
「何言ってんだ、お前は興味ないのか」
「いく、って誰もいってないだろ」
「ついてきたじゃん」
「お前が面白いところへいくっていうからさ」
塀をよじ登って庭と屋敷の様子を伺っていた赤毛の少年は地面に降り立ち、不機嫌そうに隣で口を尖らせている少年を少し睨んだ。
そのさらに隣で周りの様子に気を配りすぎている少年が、赤毛の少年に対して非難の目を向けた。
「どうして貴族の屋敷に忍び込もうなんて思うのさクレア」
「なんだ理由がいるのかラック」
「理由なしにリスクの高い遊びができるかよ」
「なんだフィーロ、お前貴族がどんな暮らししてるのか生で見てみたいとは思わないのか」
そう言うと赤毛の・・・クレアは残りふたり・・ラックとフィーロににんまりと意地の悪い笑みを見せた。

「それは大層綺麗な洋服を普段から着てるんだろうなぁ。パーティがあれば真新しいドレスか卸したてのシャツを着て高級車に乗り、優雅な音楽に合わせてステップを踏み、綺麗な水を口に含んで芸術とも呼べる豪華な食事にありつくんだろうなぁ!」

クレアはその場で天を仰いで半分夢心地でくるくると回り始めた。
その行為にフィーロはため息をついた。馬鹿馬鹿しい!と一蹴する。
「見ても羨ましくなるだけじゃねーか。俺はお断りだな」
「なんだよフィーロは顔だけじゃなくてハートまで女なのか?」
「殴るぞ!!!!」
「クレアの挑発に乗らないでフィーロ!」
恥なのか怒りなのかいまいちわからないが顔を火山が噴火したように真っ赤にさせて今にもクレアを殴り飛ばしそうなフィーロを抑えてラックはもう一度非難の目をクレアに向けた。
「僕らは子供でも裏のにんげんだし、出所がわかったらキー兄たちにも迷惑がかかるよ」
しごく正論を飛ばしたラックに困ったように笑ってクレアは両手をあげた。
「冗談だ」
そしてそれをきいて安心したようにため息をついたラックの耳に、

「じゃあやるなら俺ひとりで、ってことだな」

抗議の声も失せるような、呆れた一言が返ってきた。





あの頃から、今の今まで





クレアとフィーロとラック。この3人がワイワイしてるとこがみたい

























「リカルド、ルーアさんがやってる白いジグソ−パズルじゃなくてさ、たまには絵柄のあるやつ、やってみたいな俺。どう、買ってきていいかな。むしろ一緒にいこうか」
財布をちらつかせながら八重歯を見せて、クリストファーはソファで本に目を落とすリカルドに近づいた。
「どんなのがいいの」
意外にもリカルドは反対をしなかった。目線は本に向けられたままだが
「うーんとねぇ、よくある大自然の絵とか写真とかがいいね。まるで自分が大自然をつくっているようにも思えるし、それをつくるために頑張るというのもいいし、できたときに綺麗な自然が拝めるからね。」
「・・・・。」
「そうだ作ったら固めてそこの壁にどーんと飾れるのを買ってこよう!僕たちは大自然の中・・・いつでもそれが意識できるなんて素晴らしいね!」
「でもそれじゃ一回きりだよ」
「二箱買って来たらいいよ。観賞用と遊戯用にね。」
ああはやくいこう! 返事を待たずに玄関へと足を伸ばしたクリストファーを横目でみたあと、リカルドは本に手ごろな紙を挟んで机の上に置く。
上階にいるルーアに出かけることを伝えて、彼も玄関へと足を向ける。
嬉しそうなクリストファーが視界に入った。






嵌まるようなその




クリリカ。このよくわからない感じがクリリカだと信じてやまない









街角の小さな廃工場から人影が現れた。ひとり、ふたり、今日はふたり。
そのときその場に居合わせたものは珍しい、と思ったに違いない。いつもならその廃工場からは5人ほどぞろぞろと出てくるのだが。 人影は、ふたり。

「ああ今日はなんとも素晴らしい天気だ・・・・!太陽が、俺を照らしてくれている・・・!きっと俺は太陽に愛されているに違いない・・・ここ三日ずっと雨が降らないんだからな・・!俺がこうやって外に出て行くのを太陽は見ているのに違いない・・いやまて、だがそれだと他にも外出目的の人がいたらその人たちも愛されているということになるじゃないか・・・いやわかっていた・・・別に太陽は俺を照らしているんじゃないことぐらいはわかっていた・・・太陽は寛大だ・・全てのものに等しく平等なのだ・・・俺は太陽にとっては毛ほども思われていないとは思うが毎日照らされていることをありがたく思おう・・・!!太陽万歳!!そうだ、教会へいこう!かのヨーロッパなんかにはたくさんあるらしいぞ・・・!太陽に感謝をしてこよう!そうだ、そうし・・・」
「いやいやいやいやグラハムさん!話が飛躍しすぎですから!それにこれから飯食いにいくんでしょう?腹が減って工場で倒れて悲しい話してたんじゃなかったんですか元気じゃないすか!」

いつもどおりの長い語りに突っ込みを入れて、この青い作業着の男グラハムの右腕をわしづかみにしずかずかと歩いていく。
「そうだった・・・昨日何処かで財布を落としたみたいで昨日の夜から何も腹に入れていないんだった・・・それどころか水分もとっていなかったという状態だ・・・!その気持ちをやわらげるために床に右側頭部を下にして寝転がっていたのだが、途中で意識が遠のいて眩暈が起こり・・・」
「それ脱水症状おこしてんですよ!水ぐらい探せば泥水でもなんでもあるじゃないですかオゲッ」
「それは俺に泥水をすすれといっているのか?そんな乞食のような真似を俺にしろといっているのか?そうなのかシャフト。・・・まて、そんなことをいったら乞食に失礼なんじゃないか?乞食は必死に今日をいきようとしているまさに人間の鑑じゃあないか・・・!俺はなんてことをいってるんだ・・!!そうか、シャフトお前俺にそんなことをいったことといい、俺をこんな気持ちにさせたことといい、お前はサドなんだな?サディスティック星からきた王子様なんだな?とりあえず俺にそして乞食に謝れ」

シャフトにレンチを華麗に腹にぶちかまし、グラハムはもう一度太陽を仰いだ。
恐らくまた長い語りを始めようとしたのだろうが、盛大な音が鳴り響き、彼はそのままその場に顔面から地面に激突した。
「おえっ・・・ ・・グラハムさん?!」
レンチの一撃で胃液が出そうになったのをかろうじて抑えたシャフトは、一瞬あまりにも勢い良く地面に衝突したため目を見開いたが、慌ててグラハムに駆け寄る。
「何してんですかちゃんと歩いてくださいよ!」
「・・・腹に力が入らないぞシャフト・・・うまく声がでない・・・」
「そりゃ好都合ですほらさっさといきますよ!」

流石にこれ以上、空腹が進行すると命が危ぶまれそうだ。
その場でブツブツ力なく呟くグラハムを仕方なくおぶさり、シャフトは歩き出す。

いっそ光合成とかしたらいいのにこのひと。

心の中でなんとなく思うと急に背中がずしっと重くなった。
「うげっ」
「今何かがピンときたぞ俺は・・・なにかが・・・」
「腹に力が入らないんだったら黙っててくださいって」

なんとも、奇妙な構図であった。





ご飯でも食べにいきましょう





グラハムとシャフト。ノリでかいたもの










楽したい、とは確かに思っていた。今、この状況このまま走り続けても疲れるだけだと。

ほんの数分前、表通りでいつもどおり奇行と奇声を発していたグラハムの肩を誰かが叩いた。
テンションがやたらとハイだったグラハムは肩を叩かれたことに腹を立てたのかそれともむしろ挨拶でもしようとしたのだろうか、相方のシャフトには理解しかねたが肩を叩いた人物の手首をひっつかまえて(勿論、レンチで)引き倒したのだ。
あとは、流れに身を任せるだけ。
引き倒された人物は警察の人であり、当たり前のようにグラハムたちは追われることとなった。

そこまで冷静に回想したシャフトだったが実際現実は落ち着いてはいられない状況だった。
一塊になって走っても目立つので何人かにわかれて路地を走る。当然シャフトの前をグラハムが走っていた。後ろから表情は見えないが、楽しそうな声を挙げながら全速力だ。
この路地に入ったのはどうやらシャフトとグラハムだけであったらしい。そして警察は目立つことこのうえないグラハムに的を絞って追いかけてきている。
シャフトは「ああ入る路地確実に間違えた」と心で呟く。
「どうしたシャフト、警察との鬼ごっこだ。もっと本気だして走らないとつかまるぞ?何せ向こうはプロだからな!・・・いや、こうして走り回る一日(こと)も多い俺たちもある意味プロか・・・??やばい、俺は一人前になっちまったらしい・・・・!!!もしかして空も飛べたりするのか・・・!不可能だ、いやしかし試してみたいという気も」
「別に止めはしませんけど折角ですから頭から地面と衝突してください頼んます」
何とか突っ込みはいつものようにできることを少し安心したがそれで追っ手がこなくなるわけではない。

辺りをふと見回すと視界にバイクが映った。少し古く、汚れているがまだ動きそうだ。
シャフトは一瞬でこれを使おうという考えに囚われた。
「ちょ、グラハムさん。これ使いましょう、どうせこのまま逃げ切れないですよ」
バイクの前で立ち止まって耳を澄ませる。足音は遠い。若干、余裕はありそうだ。
すぐにエンジンの確認をする。異常は見られず、確かに古くてミラーが割れていたりするが気にするものでもない。
「ほら、これまだ動きますよ!これ使いましょう。俺たちさえ振り切れば全員逃げ切れますから」
「シャフト」
バイクの軽い点検をしているシャフトにグラハムがふらふらと近づく。
古びたバイクをレンチで二回ほど軽く叩き、口の端を吊り上げてニィッと笑う。シャフトの背筋に悪寒なのか、それとも別の何かなのか、冷たいものが走る。
「俺はバイクの解体も激しく好きだった・・・・まだ解体の技術も乏しかったころはちっちゃいバイクを相手に練習していた・・・懐かしい!実に懐かしい!」
今自分が追われているということを完璧に忘れたような口調でグラハムは何の迷いもなしにバイクに跨った。
「え、ちょグラハムさん?」
「なんだ?」
「運転、できるんですか」
正しくは、したことあるんですか、といったところか。
「バイクの解体にはバイクの仕組みを知ることが重要だ。表面のネジだけをとってもその内部分を理解していなければ完全無傷のまま部品は取り出せない・・・人間と同じだ。関節の外し方を知っていてもその関節にどの筋肉が、血管がと考えなければ綺麗に解体はできないだろう」
「それと運転に何の関係があるんですか」
大体予想はつきながらもシャフトはあえて突っ込んだ。

「俺はバイクを知り尽くしているからさ」

文句を言う前に足音が近くなってきた。これで見つかると間違いなく捕まる。
迷っている暇はない。と不本意ながらも判断したシャフトはグラハムの後ろに跨った。

「頼みますから、ちゃんと安全に!振り切ってくださいね!!」
「当たり前だろう!俺を誰だと思っている。」
「じゃあせめて右手のレンチはベルトに差してください!!!」

エンジン音が鳴り響き、男二人を乗せたバイクは動きだした。
順調な走り出しであった。そのまま裏路地を滑走し、徐々にスピードをあげていく。
あまりに順調だったため、シャフトは逆に心配をした。まもなく裏路地を出て大通りに出る。
その大通りの十字路で左折をしてもう一度路地に入れば警察も追えないはずだ、と頭の中では完璧な計画ができていた。・・・のだが、
この男と一緒で、そんな計画がうまくいくはずがなかった。
十字路が前方に見え始めたとき、シャフトは風圧に負けないように叫んだ。
「グラハムさん!そこ左折するんで減速してください!!」
しかし、返事はない。
しかも減速どころか加速していっている。
「グラハムさん!!きいてますか!!」
「そんなに叫ばなくてもきこえてる!!・・・だが、シャフト、ここで悲しい話だ」
「今は激しくききたくないです」
勿論、捕まったら負けの今だから、というのもあるが、
その理由のほとんどが、長いことグラハムに付き合ってきたシャフトの勘であった。
「確かに、このまま左折するためには減速しなければ不可能だろう・・・それぐらいは俺でもわかっている。バイクを一度も運転したことがない俺でも、だ。」
「・・・・で、じゃあ何なんですか」
「これブレーキついてないぞ」

(ああ、あんな裏路地にあったぐらいだ。もしかして何かの大会とか、もしくはアンティークとかの為のバイクだったかコレ。今止まること知らずのバイクの大会とか、どっかでやってるらしいしなぁ)
シャフトの頭の中に、それだけの言葉が通り過ぎた。口にできるほどの何かはもうなかった。


「ああああああああちょ、どうするんですかってあああああもう十字路っすよ!」
シャフトの叫びと同時にグラハムが重心を左に倒して無理やり左折する。
目の前を大きな産業トラックが通り過ぎた。シャフトの背筋に、何かの質量の気配のようなものが駆け抜けた。潰される、と確実に思った。
「しかもどんどんスピードがあがるんだが。どうなってる?」
「グ、グラハムさん足!!!足はなして足!!」
半分泣きそうになりながらシャフトはグラハムの頭ごしに前方を見て更に青ざめた。
どうやらグラハムはバイクと、その周りを気にしすぎて気付いていない。
シャフトは最後のなけなしの声で叫んだ。


「ちょ、その先かわああああああああああああああああああああああ!!!???」

小気味いい音と共にバイクは飛んだ。



今日は(も)とても楽しい日




バッカーノ!はこういうものがポンポンでてくるのが楽しいです。